と、宗久もさすがに考えこみ、やがてひどい落胆が顔に黒々と表れて黙りこむこともあったし、時にはフッと何か考えついたらしく、やにわに鎌首をもたげて、
「ウヌ。刀で斬ってみれば、わかる。須和と久世と貴様と、三人、そこへ並べ。ハラワタを突き破って正体を見届けてやる」
 いきなり起き上って刀をぬいて斬りかかってくる。こうして、晴高すらも刀で追いまわされてしまうのである。宗久の衰弱は甚しいし、根が生れつき虚弱のところへ、学問に凝って、ほとんど書斎を出たことがないから、いかにも身の動きがおそく、宗久に追いまくられても、アワヤの思いをみることは先ず女でもめったになかった。けれども家人一様に抜き身をブラさげた宗久に追いまくられる運命をまぬがれない。
 要するに、宗久は誰も信用しないのである。女を見れば、シノブ夫人も侍女たちも見分けがつかず、男を見れば、貴様はその本人ではあるまいと叫んで、いっかな信用しなくなるのであった。
 ただ妹の克子を思いだして時々フッと会いたくなるらしく、
「克子をよべ。はやく、よべ。あいつだけはまだ、信用ができるはずだ」
 こう叫んだ。けれどもその言葉のように自分でも思いこもうと
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