の時刻や他の部屋では、須和康人も、久世喜善も、隆光も、小村医師も、三太夫の宮内もみんな顔をそろえていた。
通太郎はあれこれ思いめぐらしたが、
「とにかく誰かが兄上を精神病院へカンキンするタクラミにもとづいて組みたてられた事であるにしても、兄上を救いだすには、兄上が狂者でないという証明をだす以外には手段がない。よろしいかね。この鑑定の場内へひきだされた兄上は、一人ずつ姿を示した婦人が姉上とキミとカヨであることを順に認めて、それが実は同一の人物であるという断定を示したことによって、満堂の人々にほぼ兄上は狂者であるという判断を与えたようだ。兄上が同時に現れた三名を見て気絶されるまでもなく、その時までの鑑定だけでも狂者としてカンキンされる運びになったであろう。ところが……」
彼はわが妻をやさしく見つめて、
「あなたがその場で兄上のお姿を観察したところによれば、三名の婦人が同一の人間であるというお言葉以外には、この上もなく聡明な人のみが示しうる静かな落ちついた態度で終始せられたという。僕もあなたの観察を正しいものと信じるが、僕自身が兄上の病床をお見舞いした折の観察によっても、三名の婦人が同一
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