ツ調べつづけた。
 しかし、結局、島田幾之進が何者であるか、ついに新十郎も突きとめることができないのだ。
 巷説によれば、馬賊の頭目であり、海賊の親分であるとも云う。そして、この道場へ住みつく時には革の行嚢に金の延棒を百三十本ほどつめこんでぶらさげて来たという。もとより真疑のほどは明らかでないが、その金の延棒がなかったことは家探しの結果明らかであるが、巷説を信じて坊主父子が麻の袋をぶらさげて盗みに入ったと見ることはできる。
 しかし、ベク助に抜け道の細工をやらせるほどの計画を立てるからには、もっと確かな見込みがあってのことではなかろうか。すると、家探しの結果、見落している場所が有りうるであろうか。
 新十郎は平戸久作と大坪彦次郎の関係、葉子と鉄馬の破談のテンマツや、新しい結婚のテンマツなどは、辛うじてこれを明らかに知ることができた。
 彼が最後に会ったのは、お吉であった。
「お前が婚礼の晩、耳にきいたことを話してごらん。何か特別なことがなかったかね」
「そうですねえ。私はお祝いにあがりましたが、お手伝いもできないから、ボンヤリ坐って、オヒラキになるのを待っていただけですよ。オヒラキのあとで残り物の酒肴をいただいて酩酊しましてからはよく覚えがありませんが、金三さんもお紺さんもオシのことで、酔っぱらうと、ワアワア唸るのがうるさくてねえ」
「オヒラキになったのは何時ごろだね」
「八時ごろだとか皆さんが言っていました。私が酔っぱらって、うたたねして、起きてウチへ帰ったのが十二時ごろですが、そのときは金三さんもお紺さんも銘々の部屋で大イビキでねむっていました。オシのくせに、二人はひどい大イビキでねえ」
「その晩お風呂はあったろうね」
「それは祝言ですから、お風呂をたかないはずはありませんねえ。けど、私はお風呂はいただきません」
「酒宴の最中に風呂にはいった物音をきかなかったかね」
「お風呂は道場の方についていて、台所から離れているから、物音なんぞきこえません」
「お料理を作っていたのはお紺かい」
「いえ。料理屋の仕出しですが、お手製のものはサチコさまが主に指図してお作りになっていたようですよ」
「お前は山本定信さんのお邸にも出入りするそうだね」
「ええ。時々もみ療治にあがります」
「お前は大工のベク助を知っているかえ」
「ええ。そういう人が居たてえことは聞いてましたが、ツンボ
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