オタツはすでに捕えられて留置されていた。腕の立つ猛者を十名もさしむけてオタツを捕えたそうだが、それでも甚だ難儀な立廻りであったという。
犯人はオタツであった。ナガレ目は無関係であったし、カモ七もオタツの犯行を全然知らなかったのである。新十郎は語った。
「オタツとガマ六はその晩炭焼小屋で一夜をあかしましたが、ガマ六の大金を見てムラムラと殺意を起し、重い棒か何かでガマ六の後から頭を一撃して、殺したのです。一撃によって頭がくだけて、目がとびだすという強襲でした。それをコモ包みにして山小屋へ運び、畑の物と一しょに下の家へ運び下して、いったん自宅へおき、夜行列車の通る直前に線路へすててきました。また、花房がくるのを知ると炭小屋で待ちぶせていて、二人で一夜をあかし、翌朝花房をねじふせて、ナワか何かで後手にいましめてコモで包み、谷へ運んで牛の角をめがけて花房を上へふりかぶって投げおろした。牛がおどろいて、角をぬくと、もう一度花房を突きあげて自分のナワをきって盲メッポウ走りだしたのでしょう。花房は牛の角につかれるまで生きていたのです。花房をねじふせてコモにつつむとき、抵抗に対してちょッと手荒にやったから、口中に土がつまったり、右腕が折れたりしたのでしょう。コモに包んでから、花房のタビをぬがせて、炭焼小屋の中にすてられていた古いワラジをはかせた。それはオタツが花房の習慣を知らないからで、谷へ降りたと見せかけるには当然誰にでもワラジをはかせる必要があると考えたのでしょう。ガマ六もワラジをはいていた。花房でも誰でもワラジをはくのが当り前と、そこは田舎者ですから自分の生活の常識通りにワラジをはかせた。質屋の倅の犯行でないこと、田舎者の犯行だということは、これで殆ど察しがついたのですよ。オタツは怖しい女ですね。ガマ六を殺して以来、持って生れた妖しい毒血のようなものがうごきだしたのでしょう。男と一夜のチギリをむすんで殺す。生きたままコモ包みにして牛の角で殺す。そういう殺し方でないと満足できないような妖しい気持が生れたのでしょう。犯行が分らなければ、さらに里へ進出して、見知らぬ男にハダをゆるしてはムザンな殺人を犯したろうと思いますよ」
そこまできけばタクサンだった。虎之介は海舟のおどろくべき心眼の鋭さを思い知り、氷ヅメにされたように力を失ってしまった。
★
海舟の前
前へ
次へ
全29ページ中28ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング