七のようなバカな能ナシが好きと見えて、カモ七が十九、オタツが十七の年に両名相談の上、オタツはカモ七の親のところへ、カモ七はオタツの親のところへ二人の結婚の承諾を求めに行った。
カモ七はオタツの父にいきなり飲みかけのお茶をぶッかけられた。するとカモ七は、
「お茶をぶッかけたのはオレとオタツを祝ってくれたのか。オレはお茶だと思うが、しかしお前は白湯《さゆ》をのんでいたのかも知れないな。いまオレにかけたのはお茶だろうか白湯だろうか、どっちの方だ」
云い終らないうちに火吹竹で十あまり殴られて戸外へ投げとばされてノビてしまった。
オタツの方はカモ七の母親に散々からかわれ、おまけに野良帰りの足を洗っていたカモ七の父に足を洗った水をぶッかけられたので、オタツは赤々とふくれ上って、近くにあった火吹竹を一握りするやカモ七の親父の頭を十あまりぶッて、ノビたのを近所のタンボまで運んで投げこみ、その頭から肥をかけた。
村の者が相談の結果、二人風変りの恋人を一しょにさせて、遠い山腹の痩せ地を与えたが、オタツは力に物を云わせ木をぬき肥料をかつぎあげ、立派な畑にしあげて村人をアッと云わせ、二人の生活は至って平和であった。もっとも一週のうち一度や二度は突きとばされたり殴られたりしてカモ七がノビたり、顔を腫らしたり、骨を折ったりしたが、カモ七の骨は粘り気が強いらしく、じき治ってしまう。山腹の畑の方にも小屋をつくって、忙しくなるとオタツは山小屋にこもったが、留守番のカモ七は朝と夕方山へ食べ物を運ぶついでに、トリイレのムギやイモをいくらか運び下す程度で、日中と夜間は何もしない留守番だった。その期間山と下で別々にくらす二人が人に分らぬ秘密の生活をしていたにしても、山小屋は遠く離れていて、ただ歩くだけでも現場から四十分以上はタップリかかるし、ウスノロで非力のカモ七に気のきいた犯罪はできそうにもない。
菅谷はどうしても何か秘密があるし、誰かが殺したに相違ないと思ったが、本署の方では一方は酔っての過失死であるし、他方は牛が犯人だときめて動く様子がないし、いくら考えても自分の力では謎が解けそうもない。そこで上京のツイデに思いきって結城新十郎を訪ね、今までのことをみんな語って判断をもとめた。
★
新十郎はきき終って、
「あなたは一番大事なことをよく見ていらッしゃる。汽車にひかれた
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