ネの仕業であったろう。
同室の四名の男はかねて答弁を言い合わした様子もないのに、まったく同じような返事であった。四人は各自が人に狙われているとカンチガイして、隣室で左近が殺されたのに気附いた者は一人といえどもいなかったし、その疑いを起したものもいなかった。自分の一個の大事に逆上して取りみだしていたのだ。
とにかく、いくらか違った返事のできるのは、左近とねていた久吉だけであった。
しかし久吉の返答は実にカンタンであった。つまり目がさめたら人がドヤ/\部屋の中へはいってきた。そのちょッと前に目がさめていたが、暗闇で何も見えないので、何かの音がするけれども、フトンをかぶっていた。何かの音は左近の死んだ音ではなくて、多勢の人の音のようであった。久吉がポツン/\と語ることはそれで全部で、一そうワケが分らなくなるばかりであった。
警察の断定はハッキリしていた。ミネの夫殺しであり、そのための自殺であった。アンドンをつける落着きをもつ唯一の人物ミネが、かかる冷静な犯行をなしうることはフシギではない。彼女が夫を殺したい気持は鬼といえども同情の涙をもって許したであろう。この住家に左近以外の唯一の同
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