は他の二人にも彼ら自身の注意を喚起させ、志道軒は三名の足の方の寝床にねむり、常友は三名の頭の側の寝床にねむった。左近の居間への板戸に近い位置には正司と常友が近く、ミネも遠くはなかった。最も離れているのは志道軒と幸平であった。また常友は欄間をはさんで、左近の屍体と壁の左右に位置していた。
何物かが寝しずまった部屋の中へ天井から降ってきた。誰ともなく一同は総立ちになった。そして騒いだ。暗闇の中を誰がどのように騒いで行動したか分らなかったが、そのうちに降ってくる物が抜身の刀であることに気附いた人々が益々狼狽し、誰かが刀だと一言云うと、やがて誰かが斬り合いをしたかのように、人々は生きた心地を失いフトンを楯の代りに構えて用心しつつ、壁に吸いついてすくんでたり、ジリジリ移動したりした。二人の身体がちょッとふれると二人は無言でパッとはじかれて飛び放れたり、地上にふしてフトンをかぶって構えたりするのであった。
誰も自分でアンドンを探して燈火をつけることを考えたものがなかった。身をまもることに必死だったのである。ついに燈火をつけたのはミネであった。あまり緊張のはげしい異常な時間であったから、どれぐら
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