い岸へつけて松の根ッこへ放りだせ」
 瑞巌寺の岸へつけ、一力は松島の漁師に後事を託し、正二郎を残して去った。そこで正二郎は首尾よくイタチ組から離れることができた。さッそく塩竈へとって返して、造り酒屋の聟におさまったのである。

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 さて聟におさまってみると、考えていたのとは勝手がちがう。彼の後にイタチ組の抜き身が光っていた時とはちがって、扱いの相違が甚しい。旗本の扱いどころか、下僕の扱い。給料がないから、下僕以下。下僕に対するイタワリも遠慮もない。
 だんだん様子が分ってくると、彼を聟にむかえたも道理。お米は名題《なだい》の淫奔娘で、すでに三人も父《てて》なし子を生み落して里子にだしており、この界隈からは然るべき聟をむかえることができない娘であった。
 また清作が娘のお米に対する態度も冷淡である。清作はお米が自分の子ではあるまいと疑っていた。娘に似て母のお源も淫奔だった。清作と結婚まもなく、専信という美貌の僧との取沙汰があった。そして生れたのがお米であるが、醜男《ぶおとこ》の清作に似たところはなく、どことなく専信の面影を宿していた。その時以来夫婦の仲は冷えきって
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