らんだわけでもない。知らぬうちに、大きな運命の手が義理の父と娘を不義の仲にしていたのである。しかし、これが不義であろうか。ただ運命があっただけだ。正二郎にも自分にもヨコシマな思いはミジンといえどもなかったのだ。
「お母さんがここへ来たら、私はどうなるのでしょうか」
 それが何より訊きたい言葉であったが、言うことができないのだ。怖しいのだ。天地に羞じるところはないが、浮世の義理人情が怖しい。母は再び正二郎の妻であろうか。そして自分は、どうなるのだろう? その時こそは、本妻の娘が義理の父のメカケでありうることは許されないに相違ない。自分はいッたい、どうなるのだろう。正二郎も母もお園もそれで万事うまく行くかも知れないが、自分だけは、いったい、どうなるのだ。自分の味方は天にも地にも居ないではないか。
 今にも胸がはりさけて破裂してはじけ出るかと思われるその切ない言葉が、たった一ツ言うことができないのだッた。
「まア、うれしい。お母さんや、姉さんが、ここに住んで下さるの。散々お世話になり迷惑ばかりおかけしたお母さん姉さんですもの、一しょに住めるなら、私はどんなことでも辛抱するわ」
 駒子はこの上
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