、ベラボーめ、男の知ったことか、と威張り返って済む話ではないから、こう言われると、さすがの親方も二の句がつづかぬのである。
 たのむ一力もむなしく撃退される始末であるから、正二郎の落胆、悩みは測りがたいものがあった。
 その時、正二郎をそッと訪ねて、耳もとでささやいたがはお龍婆さんであった。
「私しゃアね。旦那。差出がましいことですが、心配で仕様がないから、それとなく法律の先生にきいてきたのですよ。あのアバズレどもを追ンだす術がたッた一ツあるんですとさ。旦那はあのアバズレと結婚前に、お久美様という正式の奥方がおありではありませんか。歴とした旗本御夫婦。それが正式の御夫婦ですよ。それをタテにとれば、お米だのお源なんぞ追いだすのはワケはありゃアしませんとさ。その代り、旦那もお久美さんも二重結婚とやらの罪をきるそうですが、御一新のドサクサの際ですもの、夫婦は遠く離れてお互に生死も分らぬ非常の際、それはお上《カミ》が察して下さるそうですよ。お久美さんの娘がオメカケというのはちょッとグアイが悪いけど、背に腹は代えられません。そこは母と娘の愛情、相談ずくで世間をごまかす工夫もあるでしょう。お米とお
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