と思わず大きい目玉をひらいて里人を見つめて、
「それで、金箱の在りかを、どなたか突きとめましたか」
「それが未だに分らねえだねえ。チョックラ指をさしたぐらいじゃ分らないねえ」
「そうでしょうなア」
二十年前のこととは云え、あの碁に負けた手筋だけは、どうして忘れられようか。石の下! 実に無念の見落し。石の下!
それだ! 甚八はひそかに思った。
「そうだとも。アア、大変なことだぜ。津右衛門が必死に指したのは、ほかでもない、あの碁盤だよ。碁燈に仕掛けがあるものか。あの最後の局面。今や黒のイノチとり、オレが必死に考えていた見落しの筋、石の下、があるだけじゃないか。碁を知らない者には分らないが、いまわの際にはそんなことは云ってられやしねえや。するてえと、この秘密を見破ることができるのは、天下にオレが一人だけ。オレがあの局面の説明をしない限りは誰にも分りやしないのだ」
まさかに千代が相当の打ち手で、この秘密を見破っているとは知らないから、甚八の胸にはムクムクと宝探しの黒雲がむれたった。
「フン、おもしれえや」
と甚八は腹に笑った。
「志呂足の一味がどういう企みでオレを呼びやがったかは知らないが、その手間賃はフンダンにもらってやるからな。何よりも先ず目に立つ石を探さなくちゃアならねえや」
さすがに甚八は千代とちがって謎をとく筋、カンドコロというものの見当をつける手法になれていた。先ず有名な石、古くから人に知られた石、そういうものから次第に当ってみるべきだ。家の土台石の下というのも考えられるが、こいつァ家を造った大工を殺さなくッちゃア秘密がもれてしまう。甚八は大工であるから建築のことはよく分るのだ。しかし、大工殺しの秘密だってこの家の歴史の中に有りかねないから、根掘り葉掘り昔の秘密をさぐりだして必ず宝の在り場所を、否、宝そのものをわが手に入れてみせるぞと誓った。
莫大きわまる手間賃が目先にチラついて甚八の心ははずんだが、なんの企みがあって自分がここへ呼ばれたかと考えると、薄気味わるさは増す一方だ。
「オヤ、命日までまだ七八日あるんですかい。今日明日のようなことを仰有った筈だが、どうしたわけで?」
甚八がこう問うと、地伯は薄とぼけるのか何も答えず、年の若い須曾麻呂がきわめて冷淡に、
「東京へ買い物のツイデにお寄りしたのです。すこし間があると思いましたが、ほかにツイデがあ
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