ワレが分らないのでございます。主人が生きておればとにかく、行方知れずですもの、私の家こそ特別家探しを受けないのが当り前と申せましょう」
キンは帯の間から一通の手紙をとりだして新十郎に見せた。
手紙の差出人は大和である。新橋の某楼に於て昇龍丸の犯人探しの会を開くから出席されたい。当日の出席者は今村、五十嵐、金太、清松、竹造、トク及び自分の七名であるが、遠隔の地の人には旅費を支弁するから、万障くり合せて御参会願うという文面であった。犯人探しの当日はすでに明日に迫っていた。
「この手紙が届いたのは一週間ほど前のことですが、私は昨日まで考えたあげく、度々の家探しをされて痛くもない腹を探られるのも癪ですし、亡夫が他殺でありますなら、この際ハッキリ犯人をあげていただきたく、思いきってお願いに上ったのです。一切の秘密を申上げては他の方々に悪いようですが、この手紙で見ましても内輪だけの犯人探しなどといかにもふざけた様子ですから、いッそ埒をつけていただこうとの考えでした」
「清松さんや竹造さんは出席しますか」
「あの方々とは近頃は親しい交際もありませんので、きいて参りもしませんでした」
「足かけ四年前の出来事といえば大そう捜査も困難でしょう。私のような者が出席して、皆さんの口が堅くなっては困りますから、隣室で皆さんのお話が伺えるような手筈を致しておきましょう。私たちがお話を立聞いているということが分るような態度をなさっては、いけません。たとえば、強いて話をききだして私たちにきかせようとなさるような御親切は却って無用にねがいますよ」
さっそく新十郎自身明日の会場を訪ね、主人に会って、頼むと、そこは今評判の紳士探偵の顔、隣席に部屋をとってうまいぐあいに話をきくことができるように、新十郎直々見て廻って、部屋を選定することができた。
新十郎の一行は、少し早目に会場へ行って、お客のフリをして軽く飲食している。
隣室へ次第に人が集ってきた。五十嵐、金太、清松、竹造、キンの五名が集ったが、今村と、当の言いだし平が姿を現さない。五十嵐が大きな声で、
「犯人探しをしてオレに犯人を教えてくれるとは大和にしては出来すぎた親切だが、どうも、そこが臭いじゃないか。オレに犯人を教えてくれれば、相手次第では大そうユスリの役に立つからな。どうも話がうますぎらア。もう二時間も遅れているが、大和は来ないぜ。こ
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