ルをとりだして構えながら、
「オレも船長をつとめて久しいが、こんなに手数をかけるのは貴様だけだぞ。場合によっては射ち殺すから、そう思え」
五十嵐もピストルには顔色を変えて、
「何も手数をかけてやしないよ。女をまわすのがイヤなら、オレたちをこッちの仲間へ入れてくれてもいいじゃないか」
「この部屋に女がいるか、よく見るがよい」
「フン。仲間にも入れたくねえのか」
今村がたまりかねて立上って、
「何も仲間に入れないわけじゃアない。女はもう寝てしまったのだ。オレたちだけがこッちにいるからお前らもひがむのだろう。オレたちがお前たちの仲間に入っておれば、お前らも後顧《こうこ》の憂《うれい》なしというわけだ。八十吉君も竹造君も彼らと一しょに飲もうじゃないか。我々だけがここにいると、彼らの妄想は益々ふくらむばかりだからな」
こう五十嵐をなだめ、八十吉と竹造をうながし、連れ立って立ち去った。
竹造は無類の酒好きだ。酔いつぶれるまで飲みたい男だ。真ッ暗なデッキを通り、雑居の大部屋で、薄暗いロウソクのちらつく影を目にしませながら飲みだしたまでは覚えているが、ふと目を覚すと真ッ暗で、あたりはイビキ声でいっぱいだ。又、ねこんで、翌朝目をさますとそこは雑居の大部屋である。ソッとぬけだして、デッキを渡り、船長室の前まで来ると、そこに蒼ざめて立ちすくんでいるのはキンであった。キンは黙って船長室の内部を指した。畑中が殺されているのだ。肱掛椅子に腰かけたまま眠っているところをモリで一刺しに心臓を刺しぬかれたらしい。そのモリは椅子の背にまで刺し込んでいた。そして、金庫が開け放されていた。白黒二ツの大真珠が姿を消していたのである。
キンはよく眠った。ふと目をさますと、もう夜が明けているのに良人の戻った形跡がないので、心配して船長室まで来てみると、畑中が殺されているのを発見したのである。
船内隈なく探したが、キンの良人八十吉と二ツの真珠は再び現れてこなかった。
★
畑中変死の報に面色を失ったのは大和であった。彼の頭に先ず閃いたことは真珠であった。さっそく彼を先頭に金庫を調べると、白黒二ツの大真珠のほかには小粒一つの異常もない。
「フン。たとえ腹の中へ呑みこんで隠しても、日本へ帰るまでには見つけだすぜ。船の外には出られないのだからな」
大和は一同を見渡してせせら笑った。
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