と思う者は、当然本宅を襲うべき理でなければなりません。ヤスはヒサが飛龍座を訪れたのはヒサの思いつきの如くに証言しておりますが、これがそうでないことは、荒巻が十一時に露月で待っていたことで知ることができます。ヒサも露月へ行くつもりでした。これを飛龍座へ行かせたのは、ヤスがそうさせたのであります。ヤスはかねてヒサを露月へ送るたびに六区に遊んで、六区の小屋のあらゆる事情に通じていました。飛龍座の隣りの小屋が日中は無人で行李があること、そこが犯行の現場たるべきことは念入りに計算され予定されていたのです。のみならず、ヒサの行方を探すフリをして、男女両様に変装して行李を中橋家へ届けることも、中橋をおびきだして殺すことも。ヤスは九時ごろ行李を始末するについての予定の全部を無事完了すると、元の女の姿に戻り、もはや身を隠す必要もなく人力を利用したりして、十時ごろには妾宅へ戻っていたでしょう。しかし彼女は妾宅の中へはいりませんでした。なぜなら、彼女は機を見て中橋を殺し、その後に、ヒサの姿を探しあぐねてようやく戻ってきたと見せかける必要があったからです。又、ヒサの行方を探すためなら、どんなに遅く戻っても怪し
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