だ。だが新十郎はチミツな頭だよ。オレがバカなのさね。つまりは、全作とミヤ子のそれらしさに眩惑されたのがバカ。つづいて無抵抗がメスメリズムのせいであるのを、この場合に忘れたに至っては大バカさ。イエさ。大そう学問になりましたよ。こんなマチガイをしでかすのは、単にその時に限ってのウカツさではすまされません。つまりこの方にいまだ至らざるところがあるからさ。これはどうも実に判然とその事実を認めないわけに、いきませんやね」
虎之介は海舟の自戒の深さに敬服し、あわせて、居ながらにしてほぼ大過なく事の真相を見てとっている心眼の深さに敬服、ああ偉なる哉と目をとじ頭をたれて言葉を忘れているのである。
底本:「坂口安吾全集 10」筑摩書房
1998(平成10)年11月20日初版第1刷発行
底本の親本:「小説新潮 第四巻第一三号」
1950(昭和25)年12月1日発行
初出:「小説新潮 第四巻第一三号」
1950(昭和25)年12月1日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:松永正敏
2006年5月11日作成
青空文庫作成ファイル:
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