ヤミヨセには信者以外の者は列席を許されないときつい定めがございますが、お義姉《ねえ》様の特別のはからいで列席を許されなすったのでしょうか」
 ミヤ子の顔色はビクとうごいた気配もない。それでもしばし口をつぐんでジッと新十郎を見つめているのは、思わぬ急所をつかれたからであったろうか。やがて平然と答えた。
「そう。姉のはからいかも知れません。特に心霊的に解釈いたしましてね。姉があの日のヤミヨセという行事で狼に食いころされるかも知れないと大そう怖れているのを知りましたから、あの人が狼に食い殺されるならずいぶん面白い見モノだろうと思って、居ても立ってもいられなくなりましたのです。幸い天王会の本殿は元山賀侯の御本邸で、達也様なら内情におくわしかろうと御案内をたのみました。山賀侯爵家は当家の仇敵のようなものですが、達也様は天王会を目の敵にするお方ですから、二三度お会いしただけで親しい方ではありませんが、あつかましく御案内をたのみました。快く引きうけて下さいましたので、マサカと思っていましたが、狐憑きの血筋は争われないものですね」
 新十郎は笑って、
「お嬢さまはお考えちがいをなすッていらッしゃいます。当夜お嬢さまがヤミヨセに出席なさったことは、ほかに見ている人がいて教えてくれたのです。山賀達也さんは、当夜列席していたのは自分一人で女の連れなどはなかったと大そうかばっていらッしゃるのですよ。それで、ヤミヨセ見物の御感想はいかがでしたか?」
「大そう面白く拝見いたしました。本当に食い殺されたと思いまして喜んでおりましたが、生き返ったのでガッカリいたしました。しかし結局あの結果になりましたから、天王会の隠し神は案外正直でございます。当家の庭で殺したのはズルイやり方ですが、生き返ったままノコノコ戻ってくるのに比べれば、結構なことで、不平ものべられませんね。天王会には散々迷惑した当家ですが、これで恨みがいくらか軽くなったように思われます」
「あの晩は何時ごろお帰りでしたか」
「ヤミヨセが終るとさッそく帰りました。門の前まで達也さんに送っていただきましたが、帰ってみると零時ちょッと過ぎていました」
「庭に物音をおききになりませんでしたか」
「疲れてグッスリねましたので、目がさめるまで何一つ覚えがありません」
 これも亦《また》荒ぶる神の親類筋のようなすさまじさ。神経が太いというのか、気象が荒
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