で、かゝる真実は未来に就ての真実の保証ではあり得ない。
 未来においては、あらゆるウソも可能であり、ウソと真実の区別はなく、あらゆるウソも、あらゆる可能性も、やがてそれが生活せられることによつて、全てが真実となるだけだ。そして、それが真実となり得るのは、生活せられることによつてゞはなく、何事も、生活すれば真実でありうるという可能性の中に、より大きな真実性が存する。過去的実人生の真実の如きは取るに足らぬ足跡にすぎぬ。
 文学は未来の為にのみ、あるものだ。より良く生きることの為にのみ、あるものだ。人の考えうるあらゆる可能性が真実として作品中に行為せられるところに、文学の正しい意味がある。そこに人間の正当な発展が企てられ、実存している。その眼が未来に定着しない文学は作文にすぎないことを知るべきである。



底本:「坂口安吾全集 04」筑摩書房
   1998(平成10)年5月22日初版第1刷発行
底本の親本:「読売新聞 第二五一六一号」
   1947(昭和22)年1月20日
初出:「読売新聞 第二五一六一号」
   1947(昭和22)年1月20日
入力:tatsuki
校正:宮元淳一
2006年5月5日作成
青空文庫作成ファイル:
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