あの石室の中に誰にも分らない秘密の隠し場があるに相違ない。奴は生来奇妙な工夫に富んでいる。あるいはシマの財布を盗んで隠すために五年もかけてあの山をこしらえたのかも知れないのだ。
 この考えは何よりも強くピンときた。中平は久作の腹黒さにおどろいたのだ。そこまで考えている久作とは今までさすがに知らなかったが、それは常に勝ちつづけ勝ち誇っていたための不覚であったろう。負けつづけていた久作は最後の復讐を狙っていたのだ。
 ある晩、中平は久作の石室へ忍びこみ、チョーチンの明りで石室内を改めたが、特に怪しいところを見出すことができなかった。モウ盗難から四十日もすぎている。その上、五年も前からたくらんでいた仕事だからヌカリのあるはずはない。妙なところで抜目のない工夫に富んでいる久作のことだから、石室自体の奇怪さと同じように人の気付かぬ秘密の仕掛けがほどこされているに相違ない。石室そのものを解体する以外に手がないと中平は断定したのである。
 翌日の正午を期して、中平は再び部落の半鐘をならした。今回は慌ててではなく甚だ確信をもってならしたのである。集った部落の全員を眺めまわして、
「みなによく聞いてもらいたいことがあって集ってもらったが、オレの盗まれた金のことだが、その隠し場所が分った。それは久作がこしらえている石の穴倉のどこかに隠されている。そこでみなに相談して腹をきいてみたいが、久作にあの山をくずしてもらって、穴倉の石を一ツずつ取りのけてもらいたいと思うのだが」
「オレが犯人だというのか」
「イヤ。そうは云わぬ。ただあの穴倉の中にぬりこめられていると分っただけだ」
 久作以外の人たちは中平の推理をフシギなものとは思わなかった。彼らは自分が容疑者から除外されれば満足で、その他のことで必要以上に考えるのは人生のムダだという思想の持主である。第一、中平の言い分は花も実もあると人々は思った。
 なぜなら、隠し場所はあの穴倉だが、犯人が久作とは限らないと云っているからだ。二連発銃をぶらさげながらの言葉にしてはまことに花も実もある名君の名裁判のオモムキがあって、それだけでもうほかに理窟は何もいらない。金がでて犯人がでなければ、まことにめでたい。中平も男をあげたと人々は内々心に賞讃をおしまなかったから、久作が五年がかりで築いた山をくずすのに誰も同情しなかった。部落会長の六太郎はこの裁きに敬意を
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