勉強記
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)憑《つ》かれだした
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)大変|佗《わび》しくてならない
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]
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大震災から三年過ぎた年の話である。昨今隆盛を極めているアパートメントの走りがそろそろ現れた頃で、又青年子女が「資本論」という魔法使いの本に憑《つ》かれだした頃でもあった。生活の形式にも内容にも大きな転換期が訪れようとしていた。「近代」が、また「今日」が、始まろうとしていたのである。
涅槃《ねはん》大学校という誰でも無試験で入学できる学校の印度哲学科というところへ、栗栖按吉《くりすあんきち》という極度に漠然たる構えの生徒が、恰《あたか》も忍び込む煙のような朦朧《もうろう》さで這入《はい》ってきた。強度の近眼鏡をかけて、落着き払った顔付をしているから、何かしら考えている顔付に見えたが、総体に、このような「常に考えている」顔付ほど、この節はやらないものはない。当節の悧巧《りこう》な人は、こういう顔付をしないのであ
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