のメロディ云々というビラ百枚と入場券五千枚を持ってきた。印刷屋にも青年団の契約書を入れてきただけで、手金も払っていない。この借金を撃退するのが、また彼の後日のタノシミなのである。
 信二は青年団の重役連三十名の男女に切符を分配して、
「近郷近在、手づるをもとめ、顔をきかせて、売れるだけ売って下さい。全力をあげることですね。売上げをあんまり使いこんじゃいけませんね。半分は持ってきて下さらなくちゃア、雑費が払えませんから」
 ニコリともしないで重大な訓示を云い渡した。男女三十名の重役連、訓示の重大さに気づいたのは、信二の家を辞してからであった。
「売上げをあんまり使いこんじゃいけませんね、と。たしか、そう云ったねえ。アンマリ、と。アンマリか。ちッとはいいのかい?」
「半分は持ってきて下さらなくちゃアと仰有ったわねえ」
「ウウム。そうか。オイ。これだぜ。これを政治的フクミと云うんだ。今の言葉でな。そうか。血筋は争えないもんだなア。さすがに名門の子孫だよ。おそるべき政治的手腕だぜ。バカどころか、バカとみせて、見上げた腕じゃないか」
「政治家ねえ」
「おそれいった」
 にわかに認識が改った。


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