々しく見えた」
「サヨは目をとじて蒼ざめた顔をしたか」
「目をとじたら、一そう神々しい笑顔に見えた。オレはサヨに云われた通り力いっぱいヘソを刺して、それから下へ引いた」
「サヨは悲鳴をあげたろう」
「一度も悲鳴なんかあげない。突き刺したとき、かすかにウッとうめいて、オレが短刀を引き下して抜いてから、よろめいてドスンと倒れた。しばらく苦しんでもがいたが、一度も叫ばなかった。サヨは苦しみながらオレに云った。仁吉は男だ、我慢しろと云った」
「それはどういう意味か」
「痛いのはしばらくだ、じき楽になるから、とまたサヨはオレに云った。そして、しばらくたつと、サヨは本当に楽になって、笑いをうかべた」
「そして何か云ったか」
「その笑い顔が挨拶の言葉だということがオレには分った。そしてサヨは死んだ」
「なぜサヨが殺されているとウソをついて届けたのか」
「サヨがそうしろと教えて死んだからだ。オレは一人で誰にも見せずに穴を掘って埋めると云ったが、そんなことはするなとサヨは云った。生涯生き恥をさらしたから、ハダカの死に姿をさらして死に恥もかきたい、と云った。みんなにハダカ姿を見せたいと云った」
「罪ほろぼ
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