頭に侍り、カナダライに氷をいれ、タオルをしぼり、五分間おきに余のホッペタにのせかえてくれたり。怒り骨髄に徹すれど、色にも見せず、貞淑、女大学なりき。
 十日目。
「治った?」
「ウム。いくらか、治った」
 女という動物が、何を考えているか、これは利巧な人間には、わからんよ。女房、とたんに血相変り、
「十日間、私を、いじめたな」
 余はブンナグラレ、蹴とばされたり。
 あゝ、余の死するや、女房とたんに血相変り、一生涯、私を、いじめたな、と余のナキガラをナグリ、クビをしめるべし。とたんに、余、生きかえれば、面白し。
 檀一雄、来る。ふところより高価なるタバコをとりだし、貧乏するとゼイタクになる、タンマリお金があると、二十円の手巻きを買う、と呟きつゝ、余に一個くれたり。
「太宰が死にましたね。死んだから、葬式に行かなかった」
 死なない葬式が、あるもんか。
 檀は太宰と一緒に共産党の細胞とやらいう生物活動をしたことがあるのだ。そのとき太宰は、生物の親分格で、檀一雄の話によると一団中で最もマジメな党員だったそうである。
「とびこんだ場所が自分のウチの近所だから、今度はほんとに死んだと思った」

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