初音サンに談じこんだ。
「あなた、結婚の意志がないんなら、オヤジの呼びだしを拒絶して、当分身を隠した方がいいと思うな。オヤジ、今に大病になるよ。殺人が犯罪なら、人を大病にするのも犯罪だと思うがなア」
「脅迫するわね」
「オヤジを大病にして面白がっているのなら、悪魔派だね。その趣味もわかるけど」
「そんな悪趣味じゃないわよ」
「とにかく、オヤジはダラシがないねえ。ボクだって、もしボクが女なら、あの人物の求婚は拒絶すると思うな。この際ハッキリ拒絶した方がオヤジのためにも良いですね」
「本当? じゃアあなた私が拒絶したあとの責任もって下さる?」
「そんな責任もてないですよ。責任は責任、それは各人ハッキリしなければいけません」
「ずるいわね」
「じゃア、一思いに結婚して下さいな。ボクは本当はその方を望んでいるんですけど、あなたに悪いと思ったから、遠慮してたんですよ」
「結婚すれば、私あなたの母親よ。あなたのようなナレナレしい倅なんて、変だわね」
「それは違いますよ。あなたはオヤジのオヨメサンにすぎないです。ボクの母親では絶対にありません」
「わりきれてるわね」
「それじゃアあなたは、オヤジと結婚する意志がなきにしも非ずですね」
「八|分《ぶ》二分ぐらいね。二分の方よ」
「それじゃア脈があるよ。ボクらは一分、むしろ零コンマ一分ですらも、脈のある方に数えるからな。では、もっと、ロマンチックにやるべきだなア。気分をだすべきですよ。オヤジはそれが出来ないのですね。ボクがオヤジに代ってプランをたてましょう。人跡まれな山中へ旅行しましょうよ。あるいは、むしろ、学術的な旅行がロマンチックかも知れないな。オヤジは考古学に趣味があるから、発掘旅行にでもでかけたら、あなたもオヤジを見直すかも知れないな」
「考古学? 探険するのね?」
「そうかも知れない」
「面白いわね」
「じゃア、それにしましょう」
 一夫は初音サンと一しょに梅玉堂の書斎を訪れて、
「両白いことがありますよ。お父さんは都会で初音サンとつきあってると、今にキチガイになりますから、静かな大自然の中へ原始的な旅行なさるべきですね。初音サンも一しょに行って下さるそうですから、考古学の発掘旅行をやりましょう。そして、ボクたちに考古学を教えて下さい」
「考古学? 私がかい。そんなの知らないよ」
「アレ。知ってるよ。以前、土器のカケラみたい
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