の米をリュックに背負って帰って来た。彼が家へ着くと同時に警戒警報が鳴りだした。
次の東京の空襲がこの街のあたりだろうということは焼け残りの地域を考えれば誰にも想像のつくことで、早ければ明日、遅くとも一ヶ月とはかからないこの街の運命の日が近づいている。早ければ明日と考えたのは、これまでの空襲の速度、編隊夜間爆撃の準備期間の間隔が早くて明日ぐらいであったからで、この日がその日になろうとは伊沢は予想していなかった。それ故買出しにも出掛けたので、買出しと云っても目的は他にもあり、この農家は伊沢の学生時代に縁故のあった家であり、彼は二つのトランクとリュックにつめた物品を預けることがむしろ主要な目的であった。
伊沢は疲れきっていた。旅装は防空服装でもあったから、リュックを枕にそのまま部屋のまんなかにひっくりかえって、彼は実際この差しせまった時間にうとうととねむってしまった。ふと目がさめると諸方のラジオはがんがんがなりたてており、編隊の先頭はもう伊豆南端にせまり、伊豆南端を通過した。同時に空襲警報がなりだした。愈々《いよいよ》この街の最後の日だ、伊沢は直覚した。白痴を押入の中に入れ、伊沢はタオル
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