たりまえさ」
「大川の隣の部屋には誰が泊っていた?」
「誰も泊ってる様子はなかったけどね」
「ところが隣室と同じようにフトンがしいてあったらしいのだがね」
「それじゃア今井さんかな。大川さんと今井さんはお揃いで東京から来て泊ることが多いんだがね。私はしかしゆすりの男が今井さんだったと云うつもりはないんだよ」
「大川は君に鬼女の面をつけさせてアンマをとるぐらいだから時々みだらな素振りを見せたかい」
「それぐらい用心深い人だから、そんなことしたことないにきまってるよ。そんなことまで尾ヒレをつけられちゃアこまるじゃないか。注意しておくれ」
「ヤ、すまん。君に変な素振りをするようじゃア乃田の奥さんと何かがあっても不思議じゃないと思ったからだよ。つまり隣室のフトンが奥さん用かという意味さ」
「バカバカしい」
辻はその他多くのことを聞きだしたが、アンマの観察だから確実と見てよいものは少かった。やや確実なのは次のことだ。
オツネは九時半ごろから十時半ごろまで大川をもんだ。大川は酒と催眠薬をのんだと語っておりアンマの途中に大イビキで眠った。オツネはフトンを直してやり面を卓上において鍵をかけずに部屋
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