い物はもう大方売ってしまったようです。その方にはぼくらはタッチしませんから知りません」
今井の言葉はまるで犯人が乃田家の者だときめてるような口ぶりであった。あげくには、
「大川さんの奥さんがいま熱海におられるというお話でしたから、大川さんの熱海旅行の目的等についてきいてごらんなさい」
そこで大川夫人にききただしてみると、この旅行は株券を買うためではなくて借金を返してもらう目的であったということがハッキリした。
「家屋敷の抵当があることですから借金返済を催促したようなこともなかったのですが、また、むしろそんなわけですから百万円だけうけとるわけがないように思えましてね。奇妙なことだと思っておりましたのです」
「御主人は今井さんとずッと懇意にしておられたのですか」
「今ではお勤め先もちがっておりますし年齢のひらきもありますので、乃田さま以外のことではあまり交渉もなかったようです」
ところが東京からの報告によると今井の申し立てたアリバイはきわめてアイマイだ。新宿の飲み屋でもそういう常連はなく心当りがないような話で、彼の申立てを証明したのは女房だけだ。夜中の十二時ごろ戻ってきてそのまま正体
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