方からかけられているので死者の仕業でないことが証明できるのである。乃田夫人をゆすっていた男については明確にアリバイのあるのは庭番の爺やだけで、浩之介にはない。また常に大川と同行して泊っていた今井という人物は隣室のフトンにねることを予定して女中たちが用意しておいたものでこの人物のアリバイについても疑惑をもたれている。複雑な怪事件に発展する見透しが強くなった。ただカバンの百万円が奪われていない点について一応の疑惑はあるが、それは盗むヒマがないような突発事が起ったことを想像するより仕方がない。
こういう意味の記事を全国版地方版ともに写真入りで書きたてた。警察も他社も過失死と見てオツネに一応きいてみることも忘れていたから、この記事におどろいて本格的な調査がはじまったのである。
*
翌日任意出頭の形で熱海署に現れた今井は一昨夜は九時から十一時まで新宿で酒をのんで十二時前に帰宅していると述べた。
「今朝新聞でよんで知ったのですが、大川さんはゆすりではありませんね。むしろ金を貸していたのです。六七百万は奥さんに貸していたでしょう。奥さんは株に手をだして近ごろでは大損の連続で、
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