てやったんだし、今じゃア、好きでもなんでもないんですものね。かばってやる必要ないけど、ねえ、あんた。犯人なんて、誰だっていいじゃないの」
「だって、死刑じゃないか」
「殺された人だっているんだから、誰かが死刑になったって、仕様がないわよ」
「チエッ! ウソついてやがるな。てめえ、共犯だろう」
「人ぎきがわるいわね」
「なに云ってやんだい。じゃア、グズ弁のスパナーが、どうして中井の手に握られてしまったんだ。え? オイ、おかしいじゃないか。誰かが手渡してやらなきゃ、そんなことにはなりッこないぜ、な」
「それは、こうよ。グズ弁が酔っ払ってグデングデンになってスパナーをとりだして弄んでたから、私がとりあげてお店のテーブルの下へおいといたのさ。そんなこと、忘れてたのよ。まさか中井がきて、それを握って人殺しをするとは思わないわよ」
「中井は、どうしてる」
「知らないよ。アイツは恩知らずよ。私が学校を卒業させてやったのにね。私の物をみんな売りとばして、おまけに、恋人つくってさ。だけど、考えてみると、私ゃ、中井に惚れてなかったわね」
「虎の子全部貢いでるんだから惚れてるにきまってらアな」
「ウソだよ。
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