そんなことをしてみたかっただけらしいよ。私ゃ、平気だもの。これからだって、そんなこと、やろうと思えば、なんべんでも、できるよ。私ゃ、中井なんかに復讐したいと思わないよ」
「グズ弁を助けたいとも思わないのか」
「思わないわね。だいたい、あんた、世の中なんて、いい加減でいいのよ。一々キチンキチンやられちゃ、やりきれないわよ。私はね、誰かが下の夫婦を殺しゃいいのに、とバクゼンと思っていたわね。だいたい誰が誰を殺したってかまうこたアありゃしないよ。なんでも商売さ。人殺しの商売もあるし、人殺しをつかまえる商売もあるし、それがあんた、ちがった犯人をつかまえたって、男が入れ代ってるだけじゃないか、そんなこと云ってたら、パンパンなんか、してられるもんか。戦争も、そんなものだわよ。みんな、いい加減だから、それで世の中がまるくいくのさ。へ。グズ弁が犯人で悪かったら、あんた、パンパン屋へ遊びにくるの、およしよ」
「わるかったな」
「ハッハッハア」
 二人の会話はどうやらそこで終りをつげたようであった。グズ弁はいずれ死刑になるだろう。



底本:「坂口安吾全集 13」筑摩書房
   1999(平成11)年2月20日初版第1刷発行
底本の親本:「小説新潮 第七巻第四号」
   1953(昭和28)年3月1日発行
初出:「小説新潮 第七巻第四号」
   1953(昭和28)年3月1日発行
入力:tatsuki
校正:noriko saito
2010年5月19日作成
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