ンにして、虚勢をはり、あるいは敗北の天皇に、同情したつもりになってヒイキにしている、その程度のものだ。
 然し、日本は負けた、日本はなくなった、実際なくなることが大切なのだ。古い島国根性の箱庭細工みたいな日本はなくなり、世界というものゝ中の日本が生れてこなければならない。
 天皇の人気というものが、田中絹代嬢式に実質的なものならよろしいけれども、現在天皇が旅行先の地方に於て博しつゝある人気は、朕に対する人気、天皇服に対する人気で、もう朕と仰有《おっしゃ》らず私と仰有る、オカワイそうに、我々と同じ背広をきて帽子をふってアイサツして下さる、オカワイそうに。まったくバカバカしい。朕という言葉がなくなり、天皇服などゝいう妙テコリンの服装が奇ッ怪千万だということを露ほどもさとらぬ非文化的、原始宗教の精神によって支持せられ、人気を博しているにすぎないのである。
 このように、実質によらず、天皇という昔ながらの架空な威厳によって支持せられるということが、日本のために、最も悲しむべきことであるということを、天皇はさとることが出来ないのであろうか。
 田中絹代嬢の人気は、まだしも、健全なる人気である。実
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