使わせたり、たゞもうムヤミに、実質のないところに架空な威厳をあみだして、天皇を人間と違わせようと汲々たるものだ。
その結果は実はアベコベとなるものなのである。朕という言葉があるから、朕はタラフクたべている、いらざる不敬問題が起きる。私が少年時代、朕という言葉は、子供たちの遊び言葉で、おかげで我々は少年時代に、余分に笑うことができた。天皇服などゝいうものがある限り、又メーデーに天皇服の人形がとびだして、我々を余分に笑わせてくれるであろう。
実質なきところに架空の威厳をつくろうとすると、それはたゞ、架空の威厳によって愚弄され諷刺され、復讐をうけるばかりである。
私は日本最古の名門たる天皇が、我々と同じ混乱の客車で旅行せよとは言わぬ。たとえ我々の旅行がどのように苦難なものであるとはいえ、天皇の旅行のため、特別の一車を仕立てることに立腹するほど、我利我利でありたいとは思わない。
然し、特別に清掃され、新装せられた都市や農村の指定席を遍歴するなどゝいうことは、これはもう、文化国に於ては、ゴーゴリの検察官の諷刺の題材でしかないのである。これに類するバカらしさは、中国に於ても「官場現形記」と
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