猪を食ったばかりで、もののハズミでウッカリ言ってしまったけれども、第一、猪の肉というものが手軽に入手出来ようなどとは考えていないせいでもあった。ところが、その翌日から毎晩毎晩猪に攻められ、おまけに、猪の味覚が全然僕の嗜好に当てはまるものではないことが、三日目ぐらいに決定的に分ったのである。けれども、我慢して食べなければならなかった。そうして、一方、舞妓の方は、京都へ着いたその当夜、さっそく花見小路のお茶屋に案内されて行ったのだが、そのころ、祇園に三十六人だか七人だかの舞妓がいるということだったが、酔眼|朦朧《もうろう》たる眼前へ二十人ぐらいの舞妓達が次から次へと現れた時には、いささか天命と諦らめて観念の眼を閉じる気持になった程である。
 僕は舞妓の半分以上を見たわけだったが、これぐらい馬鹿らしい存在はめったにない。特別の教養を仕込まれているのかと思っていたら、そんなものは微塵《みじん》もなく、踊りも中途半端だし、ターキーとオリエの話ぐらいしか知らないのだ。それなら、愛玩用の無邪気な色気があるのかというとコマッチャクレているばかりで、清潔な色気などは全くなかった。元々、愛玩用につくりあげ
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