でございます。先生もさだめしお苦しいことだろうと拝察致しまして、私もマア、ちょッと、顔がきくようになりましたもんで、どうやら手に入れて参りました」
「なんですか」
彼は又クスリと笑って、頭をかいて、それから注射の恰好をしてみせた。
「なんだい? ヒロポンかい?」
「ど、どう致しまして。あれです。先生がお用いになっていた例の、麻薬」
私もつくづく呆れてしまった。デマの結果が、こういう珍妙な事実になって現われようとは。
「麻薬って、君、モヒのことかい」
「そうです。イエス。エッヘッヘ」
彼は又、頭をかいた。クスリと笑いつづけている彼の目に、妙に深々とした愛情がこもっていた。
「私自身は、これを用いておりませんが、よく知っているんでございます。中毒して入院する。入院中もぬけだして、ちょッと、用いにおいでになるもんですなア。骨身をけずられるようだてえ話を、マア、私もチョイ/\耳にしておりますんで、先生なんざ、愚連隊というものじゃなし、仲間のレンラクもなく、お困りだろうと、エッヘッヘ。そうなんでございます。この精神病院なぞと申しまして、鉄の格子に、扉に錠など物々しくやっておりますが、私共の
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