行力、決断力というものがない。映画界というところはうるさいところで、演出は演出、企画は企画、俳優は俳優、カメラはカメラ、それ/″\自分をまもるための組合組織みたいな結合が発達していて、つまり個人としての才能に自信がないから団体的に自分をまもろうとするのだろうが、それだけに素人の社長が自分の意見を通すことができない。つまり下部の各組織が自分をまもるにコチ/\の団結力をもっていて、自分達の才能のレベル以上のものを受容れる能力、創造的な開放力をもっていない。
U氏には全権があるのだから、押しきれば押しきる力はある筈なのだが、押して我が信ずるところを行うだけの情熱も信念も自信もないのである。
ディレッタントとかアマチュアというものは良い目があっても身を挺する信念も情熱も本当の自信もないのだから駄目で、芸術界に限らず、政界でも財界でも、真実その道、わが道に殉ずる情熱のないディレッタントや学者が責任ある位置につくことは最も不幸なことだと痛感した。U氏は自分の社の映画にブツ/\不平ばかり言っていたが、全権力を持つ人が自らの責任に於て事を為し得ずブツブツ不平を言っているなどは悲しむべきことであるよりも罪悪的なことで、私はとうとう本気で仕事をする情熱がもてなかった。
底本:「坂口安吾全集 04」筑摩書房
1998(平成10)年5月22日初版第1刷発行
底本の親本:「キネマ旬報 再建第一〇号」
1947(昭和22)年2月10日発行
初出:「キネマ旬報 再建第一〇号」
1947(昭和22)年2月10日発行
入力:tatsuki
校正:宮元淳一
2006年5月5日作成
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