の仕事が国内の整備経営といふ地味な道であつたから、彼は保身の老獪児であるかのやうに見られてゐるが、さにあらず、彼はイノチを賭けてゐた。秀吉よりも、信長よりも太々しく、イノチを賭けて乗りだしてゐた。
 利家は不安であつた。彼の穏健な常識がその奇妙な不安になやんでゐた。彼は家康の威風に圧倒されて正義をすて戦意を失ふ自分の卑劣な心を信じることができなかつたし、事実彼は勇気に欠けた卑怯な人ではなかつたから、その不安がなぜであるか理解ができず、彼はたゞ家康の野望を憎む心に妙な空間がひろがりだしてゐることを知るのであつた。彼は穏健常識の人であるから時代といふ巨大な意志から絶縁されてをらず、彼はいはゞたしかに時代を感じてゐた。それが彼に不安を与へ、心に空間を植えるのだつたが、友情といふ正義への愛情に執着固定しすぎてゐるので、その正体が理解できず、むしろ家康と会見し、一思ひに刺違へて死にたいなどゝ思ふのだつた。その彼は、すでに一間の空間を飛び相手に迫つて刺違へる体力すらも失つてゐた。
 家康は利家の小さな正義をあはれんだ。彼は利家を見下してゐた。利家の会見に応じ、刺違へて殺されないあらゆる用意をとゝの
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