を示したのは貿易復活といふ一条だけだ。
 クサることはないですよ、と沈惟敬は行長にさゝやいた。彼はもう外交などゝいふ国際間の交渉が凡そ現状の実際を離れて威儀のみ張つてゐるのにウンザリして、大官だの軍人だの政治家などゝいふ連中の顔は見るのも厭だ、まだしも行長にだけは最も個人的な好意をいだいてゐた。貿易さへ復活すればいゝではないですか、全羅道だの銀二万両などにこだはらなくとも、貿易さへ復活すれば儲けは何倍もある、太閤の最も欲してゐることも貿易復活の一点に相違ないのだから之さへシッカリ握つてをけばあとの条件などはどうならうと構はない、実際問題として之が日本の最大の実利なのだ。あとのことはあなたと私が途中でごまかしてシッポがでたら、私も命はすてる、地獄まであなたにつきあふよ、と言つて、行長を励ました。
 そこで内藤如安(小西の一族で狂信的な耶蘇教徒だ)を媾和使節として北京に送る、明国からは更に条件をだして貿易を復活するに就ては、足利義満の前例のやうに、明王の名によつて秀吉を日本国王に封ずる、それに就ては秀吉から明へ朝貢して冊封《さくほう》を請願して許可を受ける、要するに秀吉が降伏して明の臣下と
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