戦が始まりさうになつたから、如水は秀吉の命を受け、紛争和解のため中国に出張して安国寺坊主と折衝中であつた。親父に代つて長政が小牧山に戦つたが、秀吉方無残の敗北、秀吉の一生に唯一の黒星を印した。なるほど、ふとりすぎた蕗《ふき》みたい、此奴は食へない化け者だ、と家康も亦律義なカサ頭ビッコの怪物を眺めて肚裡《とり》に呟いた。然し、与《くみ》し易いところがある、と判断した。

       二

 温和な家康よりも黒田のカサ頭が心が許されぬ、と言ふのは、単なる放言で、秀吉が別格最大の敵手と見たのは言ふまでもなく家康だ。
 名をすてゝ実をとる、といふのが家康の持つて生れた根性で、ドングリ共が名誉だ意地だと騒いでゐるとき、土百姓の精神で悠々実質をかせいでゐた。変な例だが、愛妾に就て之を見ても、生活の全部に徹底した彼の根性はよく分る。秀吉はお嬢さん好き、名流好きで、淀君は信長の妹お市の方の長女であり、加賀局は前田利家の三女、松の丸殿は京極高吉の娘、三条局は蒲生|氏郷《うじさと》の娘、三丸殿は信長の第五女、姫路殿は信長の弟|信包《のぶかね》の娘、主筋の令嬢をズラリと妾に並べてゐる。たま/\千利休といふ
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