波川の娘百合子も婦警であった。ちょうど非番で家に居たから、洋装させて、同じ事務所の社員男女が会社をひけて帰宅の途中というアベック姿。大急ぎで取って返すと、奈々子の家には幸い二人がまだ居るらしい様子。犬がウーウー唸りつづけている。どうやら二人は上りこんだらしい。
「室内へあげたんなら、怪しい来客じゃないんじゃないの?」
「そうかも知れんな。しかし、やりかけたことだから、様子を見届けよう」
物蔭にかくれて待伏せていると、やがて二人の男が門の外へ現れた。遊び人風の方が例のボストンバッグをぶらさげている。
二人は電車通りへの方向とは反対の淋しい方へ歩いて行く。
「あっちの方角へ行くんなら、歩いて行けるところに住居があるのだな。突きとめてやろう」
「ええ、そうしましょう」
二人は三十間ほどの間をおいて後をつけはじめた。出まかせに会話しながら、いかにもクッタクのない通行人のフリをして後をつけた。どうも、これがマズかったようだ。
二人はなかなか歩きやまない。とうとう世田谷の区域をすぎて、渋谷区へはいった。ここから丘にかかると、戦災で大方やられているが大邸宅地帯。この丘を越すと、渋谷の繁華
前へ
次へ
全27ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング