讃美する。その人間の懊悩《おうのう》苦悶《くもん》とかくて国のため人のためにささげられたいのちに対して。先ごろ浅草の本願寺だかで浮浪者の救護に挺身《ていしん》し、浮浪者の敬慕を一身にあつめて救護所の所長におされていた学生が発疹《はっしん》チフスのために殉職したという話をきいた。
 私のごとく卑小な大人が蛇足する言葉は不要であろう。私の卑小さにも拘《かかわ》らず偉大なる魂は実在する。私はそれを信じうるだけで幸せだと思う。

 青年諸君よ、この戦争は馬鹿《ばか》げた茶番にすぎず、そして戦争は永遠に呪うべきものであるが、かつて諸氏の胸に宿った「愛国殉国の情熱」が決して間違ったものではないことに最大の自信を持って欲しい。
 要求せられた「殉国の情熱」を、自発的な、人間自らの生き方の中に見出《みいだ》すことが不可能であろうか。それを思う私が間違っているのであろうか。



底本:「堕落論」新潮文庫、新潮社
   2000(平成12)年6月1日初版発行
   2004(平成16)年4月20日5刷
初出:「坂口安吾全集 16」筑摩書房
   2000(平成12)年4月25日初版第1刷発行
※「ホープ
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