てから、散歩されたそうですが」
「そうです。ミヤゲモノを買いにでました。そんなことは殆どしないタチですし、するヒマもないのですが、この日は久しぶりでユックリする気持がうごいて、ミヤゲなども買う気持になったんですな。最後に、こんなものを買いました。京紅、匂袋、女物の扇子、みんな女のミヤゲです。アハハ」
煙山はトランクをあけて、ミヤゲの品々を見せた。同じ品をいくつも買ってる。ついでに二ツのトランクの中を見せてもらったが、変装用具と洗面具のほかは何もない。
「いつごろ散歩からお帰りでしたか」
「そうですなア、四条から三条、それから祇園の方までブラブラと、あれこれ見て廻って、又、新京極へ戻って、ちょッと寝酒をのんで、宿へ帰ったのは十二時半ごろでしたかなア。一時ちかかったかも知れません」
「どうも、御苦労さまでした。もう、ちょッと、みんなの取調べの目鼻がつくまで、待っていて下さい」
「イヤ、どうも、せっかく手に入れた選手を殺して、ウンザリしましたよ。せっかくの苦労も、水の泡です」煙山は苦笑して、去った。
居古井警部は葉子をよんで、煙山の出発の時刻を知っていたか訊いたが、朝出発とだけ知っていた
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