ゐる。彼のポーズは一見自明のやうに見えて、実は殆んど現実のあらゆる解釈を超越した不可解な彼の宿命に結びついてゐるとしか考へられないのである。さうして、これは彼の宿命であるから今更如何とも仕方のない事柄であつたらうと思ふのだが、もしも彼が私等の前で女に惚れた話が平気で言へたなら、彼はまだこの年齢でここまで追ひつめられずに済んだのだらうと思はれるのである。尤も、このことは最後に鉄の断言をしてもいいが、彼は本気で女に惚れきれる男ではなかつたのだ。さうして、時々泣きぬれたりしたが、決して本気で泣ききれたり笑ひきれたりする男ではなかつた。常に自分自身に舌を出してゐるところの、も一人の自分を感じつづけてゐるところの宿命的な孤独人であつた。世に最も悲しく、最も切ないところの宿命の孤独人であつたのである。彼の死が不幸であるか幸福であるかは、今私にはとても断定はできない。
底本:「坂口安吾全集 01」筑摩書房
1999(平成11)年5月20日初版第1刷発行
底本の親本:「紀元 第二巻第二号」
1934(昭和9)年2月1日発行
初出:「紀元 第二巻第二号」
1934(昭和9)年2月1日発行
※新仮名によると思われるルビの拗音、促音は、小書きしました。
入力:tatsuki
校正:伊藤時也
2010年5月19日作成
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