彼のポーズは一見自明のように見えて、実は殆んど現実のあらゆる解釈を超越した不可解な彼の宿命に結びついているとしか考えられないのである。そうして、これは彼の宿命であるから今更如何とも仕方のない事柄であったろうと思うのだが、もしも彼が私等の前で女に惚れた話が平気で言えたなら、彼はまだこの年齢でここまで追いつめられずに済んだのだろうと思われるのである。尤も、このことは最後に鉄の断言をしてもいいが、彼は本気で女に惚れきれる男ではなかったのだ。そうして、時々泣きぬれたりしたが、決して本気で泣ききれたり笑いきれたりする男ではなかった。常に自分自身に舌を出しているところの、も一人の自分を感じつづけているところの宿命的な孤独人であった。世に最も悲しく、最も切ないところの宿命の孤独人であったのである。彼の死が不幸であるか幸福であるかは、今私にはとても断定はできない。
[#地付き]『紀元』昭9・2



底本:「坂口安吾選集 第十巻エッセイ1」講談社
   1982(昭和57)年8月12日第1刷発行
底本の親本:「堕落論」銀座出版社
   1947(昭和22)年6月初版発行
初出:「紀元」
   1934(昭和9)年2月号
入力:高田農業高校生産技術科流通経済コース
校正:小林繁雄
2006年7月4日作成
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