た。
 禅僧はその夜も勿論、べつに自殺をするやうなことはなかつた。翌日はけろりとして今迄通りの生活をつづけてゐたのだ。かういふ姿が獣であるのは他人も無論、彼自らも先刻医者に述べてるやうに知らない筈はなかつたのである。然しながらさういふ自分を意識すること、意識しながら生きつづけるといふことは、恐らく獣にはないことであらう。もとよりそれがどうしたといふたいした理窟ではないのだ。

 話を深刻めかしてはいけない。北方の山国に雪が降ると、毎日々々同じ炉端に集まる人達が、よもやまの話をするさういふ話題のひとつである。



底本:「坂口安吾全集 02」筑摩書房
   1999(平成11)年4月20日初版第1刷発行
底本の親本:「作品 第七巻第三号」
   1936(昭和11)年3月1日発行
初出:「作品 第七巻第三号」
   1936(昭和11)年3月1日発行
入力:tatsuki
校正:今井忠夫
2005年12月10日作成
青空文庫作成ファイル:
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