たことが二三度あったが、似ていると直覚すると誰でも似て見えてしまうのだろう。中村君と僕は眉の濃く太いのが共通していた。
 むかし小林秀雄は酔っ払うと僕に向って、ヤイ、河童、と言った。髪の毛が額にたれるせいだろう。
 僕は然し、奇妙なことを言う奴だ、お前の方がよっぽど河童に似てるじゃないか、河童の絵を見ろ、とんがったクチバシと、三角にすぼまったアゴと、小林によく似てら。
「ヤイ、河童」
「変なことを言うな。お前の顔がオレに映って見えるんじゃないのか」
「なんでい、河童」
 わけの分らん男だ。だから彼を独断家と称するのである。
 時々くる雑誌記者がある日、すこしモジモジして、先生、実はよく似た人がいるんです、と言う。
「誰に?」
「ハア、実は、僕の郷里の乞食ですけど」
 僕はギャフンとしたが、やむなく心を励まして、
「どこんとこが似ていた?」
「どこといって瓜二つですけど、なんとなく大望をいだく様子がソックリですね」
 だから僕はジャーナリストに会いたくないのだ。礼節を知らないのである。



底本:「坂口安吾全集 05」筑摩書房
   1998(平成10)年6月20日初版第1刷発行
底本
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