て良くお分りのことと思ひます。が、婚礼の当日お熊さんが亡くなられた不思議な出来事は已にしつかりした事実であつて、婚礼とお通夜と、生憎この二つは今更どうすることも出来ない。そこで、当面の問題として婚礼もよしお通夜もよしといふ便利な手段を考案しなければならんのである。(と斯う言つたとき満場は殆んど夢心持で同感の動揺を起した)私は斯う考へるのである、諸君! (と、今度はきつい言葉を用ひた)婚礼は男女に関する儀式であつて、これは別に問題はないが、本日の亡者はお熊さんと呼ばれ、寒原半左右衛門の母であり、かつまた故一左右衛門の妻であつた事実からしても、私はこれを女と判断したいのである。とすれば、我が国の淳良な風俗によつても、これは必ず女が通夜に行かねばならん! 亡者が女であるならば、何故女が通夜に行かねばならんか? 何んとなれば、彼女が男であるならば男が行かねばならんからである。かつ又彼女が男であるならば男が行つたに相違ないではないか! しかるに彼女は女であつた。故に女が行かねばならんのである! つまり、わが村の婦人はお通夜へ、わが村の男子は婚礼へ、行かねばならんのである!」
 と、斯う結んで彼が
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