しく、一パイ飲み屋が社交喫茶だのキャバレーなどと現代風を呈している以上は、浴場にこの程度の現代風が現れるのは遅きに失したぐらい、酒と女と風呂は暴君にも庶民にも三位一体の快楽をなしていた。
私は沐浴が好きである。水浴は海も谷川も滝にうたれるのも好きだ。温浴は四十度から四十三四度ぐらいまでのぬるいのに長くつかって、特に後頭部を湯につけ、後に冷水でよくもむのが好きである。眼を冷水で洗うのも好きだ。やりだすと好きなのだが、立つのがオックウだったり、着物をぬぐのがイヤだったりして、なかなか入れない。この状態になるのは鼻汁が多く流れはじめて注意力の持続ができないようになってからで、こうなると何をするのもオックウになる。そのくせ何かツマラヌことをやりだすと今度はそれにかかりきるという妙なことになってしまう。
根は甚しく沐浴が好きな私であるが、外国へ旅行したことがないので、蒸気風呂や熱気風呂の経験がないのである。
日本にも古くから蒸気風呂があったらしい。塩ブロ、石ブロなどのほかに、小屋がけして石をしきつめ、この石を焼いて水をかけて蒸気をだし、その上に簀《す》をしいて蒸気浴をする。これはロシヤ風呂
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