通じている彦作にたのんで代理に心をきいてもらッたが、ウチワや蒸しタオルと同棲するのはイヤだし、ましてミミズと同棲するのはもう我慢ができない。自分の同棲したいのは立派に妻子を養う人間とだけだという立派な返事である。彦作はことごとく敬服して戻った。さっそく虎二郎に向って、
「イヤ、お竹さんの云うのは尤も千万だ。キミの方がどうしてもよろしくない。働いて妻子を養わなくちゃア男じゃない」
「いまは失業時代で口がないから仕方がない」
「そのこともお竹さんからきいたが、キミはニコヨンをやってたそうじゃないか。しかるに人生案内を読んだり書いたりしたいばかりにニコヨンをやめてお竹さんを働きにだしたのだそうじゃないか」
「ニコヨンの収入よりもお竹の収入の方が多いから、収入の多い方をとって入れ代ったわけだ。オレが怠け者のせいではない。オレがお竹の身代りとなってお竹の仕事をしてお竹の収入を稼ぐことができるなら喜んでそうするが、身代りがきかないから仕方がない」
「お竹さんだけを働かせないで、キミはキミで働いていたなら、こうはならなかったろうな。身からでたサビだ。心を入れかえて、今後は働いて子供を育てて、お竹さん
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