うものが大切だ。だからヒマな野郎どもが筆蹟に苦労しながらニセモノの煩悶を書き綴る気持にもなるのであろう。
田舎の小さな町に数年来この投書に凝っている男があった。手打ちの支那ソバを造って売って歩く人物であるが、自宅で支那ソバを食べさせても小さな田舎町のことで日に十人前ぐらいしかでないので、三四里はなれた三ツほどの都市へ自転車で売って歩く。専門の支那料理屋よりもただの食堂とか喫茶店だ。こういうトクイ先で一服つけていろいろな新聞を読むうちに、人生案内の熱狂的な愛読者となった。
「ウーム。今日の女杉《めすぎ》女史は本当に泣いとる。手を合せて拝んでるようだなア。ウアー。面白えもんだなア」
「あんなメソメソしたのキライよ。大山ハデ子女史に限るわよ。ズバリそのもの」
「ウン。そうそ。あれも時に面白い。活溌だなア。歯ぎれのいいとこに色気がある。どんな顔してる先生だろう」
「変な読み方してるわね」
喫茶店の女給に軽蔑されたが、そんなことは問題ではない。喫茶店の女給の如きやたらに厚化粧して年中何か店の品物を頬ばり、お客がいなくなるとお尻をふってモンローウォークの練習なぞに打ちこんでいる。どこにも色気な
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