子が生れて欲しいと考えた。男の子が生れて、それが私に似ていたりすると薄気味がわるいし、世間では私を半キチガイ扱いしているような次第で、その悪い方によけい似ていられてはオヤジも降参せざるを得ない。幸い女にはヒステリーという万人共通の症状があって目立たないから、子供は女に限ると考え、ウブ着なども女の子の物ばかり買い調えていたのであった。
 意外にも男の子が生れたので、その瞬間からいかなる怪物に育つかとそれが不安でこまったのである。とにかく鄭重《ていちょう》に扱わなくちゃアいけないと、まるで後難をおそれるような気持で、ウバよ子守よ科学よと糸目をつけずに金をかけ手をかけてやった。その代り、オヤジの私にとっては全然面白くなかったのである。さわったこともなかった。
 四五十日たつと、案外に泣き方が少いので、安心するようになった。わが家の犬は十何貫もある奴だから、その吠える声もものすごい。それに比べると、そもそも赤ン坊の泣き声など声量の点でタカが知れているから、こんなものか、と思うような安心もあった。それも私の借家が桐生随一の旧家の母屋だから、子供の部屋と私の部屋に甚大の距離があって、それに救われた
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