「ボクは川野君とどこかで一パイのむから、ここで君と別れましょう」
 しかし、安福軒はきわめてライラクにそれに答えた。
「イエ、ボクもヒマですから、一しょにお供いたしましょう。お二方を御案内したカドによって、ボクの本日の用はすんだのですよ。さて、どこへ御案内しましょうか」
 あまりライラクな返答だから、大巻博士はおかげで恥をかかずにすんだような、恩をきせられたような感じであった。
 安福軒は例の目で二人を遠慮なく見つめながら、
「ボクは生活のためですからあの宗教と離れるわけにいきませんが、あなた方がなにもあんな物に関心をもつことありませんよ。あんなもののどこが面白いんですか」
 そう云う彼も、人にきらわれながら、どこが面白くて二人についてくるのかワケが分らない。
 しかし大巻先生は、何かのハズミがありさえすれば今夜のうちにも阿二羅教の信者になりかねない自分の頼りなさに気がついた。そして、それに比べれば、面白くもないことを承知の上でこうしてノコノコついてくる安福軒がひどく逞しいような気がした。人生を面白がろうとしないのだ。面白くないことを百も承知で平気で生きている奴の自信に圧倒されたの
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